引きばねを使用していくと、ばねの力が弱くなっていく「へたり」や寸法が徐々に変化していく「変形」また「折損」が生じます。今回は「折損」について説明します。事例とともに折損を防ぐときのポイントをご紹介します。
引きばねの場合、物体に力が加わり変形し、曲がり具合が限度を超えて破断し元の状態に戻せなくなる事を「折れる」と言い、折れて壊れてしまったことで機能や性能が損なわれることを「折損」と言います。
折損原因を分類化
折損が発生する原因を簡単に解説すると、ばね使用時、材料に負荷がかかります。使用している負荷が材料の強度を超えると折れることがあります。
折損には加工時と使用時の2パターンがあります。加工時の折損原因は2つに分類できます。
①材料原因によるもの ②加工原因によるもの
使用時の原因を3つに分類すると、
①材料に起因する原因(加工キズ、錆)
②ばね製造に起因する原因(熱処理不良、表面処理不適切、形状不良)
③ばね使用条件に起因する原因(無理な設計、取付不良、環境による腐食)が挙げられます。
折損の原因は1つとは限りません。折損を皆無にすることは不可能としても、再発を防ぐことはできます。
引きばねが折損しにくくなる解決方法
なかでも「引きばね」の折損は工夫次第で解決できることがあります。対策することにより、お客様のコストダウンにも繋がります。引きばねの不具合のほとんどがフック部で発生するといっても過言ではありません。両端のフックを起点に使用することが多いためです。負荷がフック部分に集中しやすいため、耐久性がフック部や曲げRに大きく影響します。
フックの形状は、複雑な形状にすると折損が発生しやすくなるため、簡単な形状をおすすめします。
引きばねが折れた事例
栄光技研で引き受けた引きばねの折損事例とともに折損を防ぐ要点をご紹介します。ある食品機械に使用する引きばねの折損と寿命向上についての問合せでした。使用用途、環境、後加工処理などの工程をヒアリングしていくと、フック部の接地面から折れが発生したのではないかという見解になりました。
ただし価格帯が決まっていたため、限られた範囲での設計提案となりました。取付位置と接地面の関係に着目し、フックの形状を丸フックからU字フックへの変更を提案しました。再設計したばねの試作を納品し、お客様の評価後、量産品製造となりました。
引きばねの折損を防ぐポイントまとめ
折損に悩んでいる方は下記4点を注意し、引きばねの設計や使用用途を見直すことをおすすめします。
①用途に合った強度の高い素材を選定
②過大な応力をかけない設計
③ばね製造時に表面欠陥を作らないようにする
④材料の耐力、疲れ強さなどの向上を目的とする低温焼きなましを施す
引きばねの例をあげましたが、引きばね以外にも押しばね、トーションばね、線加工品のトラブルの原因が図面や仕様書では読み取れないことがあります。ばねのお困りごとも事例紹介ページに掲載しております。ばねで何かお困りの方は気軽にご相談ください。
(参考文献:ばね 入門 日本ばね学会 日刊工業新聞社
はじめてのコイルばね設計 山田学 日刊工業新聞社
ばね 基礎のきそ 蒲久男 日刊工業新聞社)