引きバネは使い方や仕様によって設計が変わるばねです。特に少量生産や特殊な環境での使用では、設計の自由度が高く、悩みも多い部品です。本記事では、引きバネを設計するうえで知っておきたい寸法記号や計算式、材質選定の考え方、注意点などを紹介します。
引きバネの各寸法の名称と基本記号
まずは引きばねの計算式に用いる記号と意味を理解しましょう。
項目 |
記号 |
意味 |
材料線径 |
d |
ばねの線の太さ |
コイル中心径 |
D |
コイルの中心から中心までの直径 |
自由長 |
L₀ |
張力がかかっていない状態の長さ |
有効巻数 |
n |
力を受ける部分の巻き数 |
初張力 |
F₀ |
最初に発生する引張力 |
ばね指数(C)= D ÷ d
ばね指数はばねの加工性や寿命に関わる重要な設計値で、一般的には4〜22の範囲が推奨されます。
設計に用いる基本公式
ばね定数や応力が設定できれば、線径や巻数、コイル径などを選定していきましょう。
引きばねの基本公式
ばね定数(N/㎜):
\[ κ=\frac{Gd^4}{8nD^3} \]
応力(Mpa):
\[ τ=\frac{8PD}{nd^{3}} \]
記号 |
意味 |
G |
横弾性係数 |
P |
荷重(N) |
δ |
たわみ(mm) |
・横弾性係数(G)
ねじり応力、せん断応力の計算をするときに使用します。主な材料の横弾性係数(G)は、下記表によります。
表 ばね横弾性係数 一覧表
材料 | Gの値 | |
ばね鋼材 |
\[ 7.85×10^{4} \] |
|
硬鋼材 | ||
ピアノ線 | ||
オイルテンパー線 | ||
ステンレス鋼 | SUS304 |
\[ 6.85×10^{4} \] |
SUS316 |
\[ 6.85×10^{4} \] |
|
SUS631 |
\[ 7.35×10^{4} \] |
|
黄銅線・洋白線 |
\[ 3.9×10^{4} \] |
|
リン青銅線 |
\[ 4.2×10^{4} \] |
|
ベリリウム銅線 |
\[ 4.4×10^{4} \] |
こうした数式や設計指標をもとに、当社ではさまざまな引きバネを製作しています。
引きバネの製作実績はこちら
引きばね設計時の注意点
引きばねの設計時の注意点は3点です。
◦フック部の応力集中に注意
引きバネではフック部(端部)の形状が応力集中の原因になりやすく、Rを大きく取るなどの工夫が必要です。
フック形状ごとの特徴と注意点はこちらで詳しく解説しています。
◦初張力と残留応力
初張力が大きすぎると、使い始めから強い引張力がかかり、不具合の原因になります。用途に応じた適切な張力設定が大切です。
◦使用環境による材質の選定
▼例えば以下のような使用環境では、材質選定が変わります。
・高湿環境・医療機器:SUS304などの耐食性材質
・高負荷環境・産業機器:ピアノ線・オイルテンパー線など高強度材
引きバネの故障は「仕様に合わない使い方」が主な原因の一つです。全く同じ形状・寸法でも使用頻度や荷重のかかり方などによって寿命が大きく異なります。
設計段階でのヒアリングや試作を通じて、使用環境に合った材質・形状を見極めることが重要です。
栄光技研株式会社では、引きバネの試作1個から対応可能です。図面がなくても、現物や簡単な仕様用途情報からのご相談にも対応しています。「同じ形のばねがすぐ折れる」「もう少し軽い操作感にしたい」などのお悩みがある場合は、ぜひご相談ください。
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