引きバネの設計では、ばねの初張力が重要なポイントとなります。初張力の設定を間違えると、動作不良や早期のばねへたりなどトラブルに繋がることもあります。初張力の基本的な仕組みから、設計時の考慮点・注意点まで解説します。
引きばねの初張力について
引きバネの初張力とは、ばねを密着巻きで製造した際に、コイル同士が押し合って発生する内力のことを指します。この力は、バネが静止状態でも最初から引っ張る力を持つ状態を作ります。
初張力がある: ばねは一定の荷重を超えないと伸び始めません。
初張力がない: 力が加わった瞬間からスムーズに伸び始めます。
つまり「初張力の有無」で、バネの動き方や使いやすさが大きく変わるんです。
初張力のメリット
初張力のメリットは大きく分けて2点挙げられます。
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コンパクトな構造で大きな荷重を発生可能:部品のスペースが限られている機構設計に有利
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細い線径でも設計可能:軽量化を図りたい製品に有効
初張力における注意点
1. 材料のクセと「ばらつき」
初張力は、材料特性や加工条件の影響を大きく受けます。ピアノ線や硬鋼線では約20〜35%、ステンレス系では約15〜25%の減少が、熱処理(低温焼きなまし)後に発生する可能性があります。
低温焼きなましとは?バネの耐久性とへたりに関係する処理はこちら
2. ピッチ巻にするかどうかの判断
「初張力ゼロにしたい」場合は、密着巻きではなくピッチ巻き(隙間をあけて巻く)にする必要があります。
※ただしこの場合、荷重特性は変わるため、使用目的に応じた設計判断が必要です。
3. 製造限界がある
初張力は、製造機の仕様やばね形状によって狙った数値に正確に設定することが難しい場合があります。設計時には±の許容範囲を設けたうえで、性能テストや試作が重要です。
引きバネの初張力は、シンプルな要素に見えて、製品全体の機構や使い勝手に直結する重要な設計項目です。設計初期から「どの程度の張力が必要か?」を明確にすることで、コストや耐久性、操作性まで理想に近づけることができます。
栄光技研株式会社は1個からの試作対応や図面なしでも対応可能な設計サポートも行っています。
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